まかない係雑記
« September 2004 »
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
You are not logged in. Log in
Entries by Topic
All topics  «
Blog Tools
Edit your Blog
Build a Blog
View Profile
Nagoya hakugaku-hompo
top
Fri, Sep 17 2004
『誰も知らない』の余韻に浸る
 ふと時間が空き、何か映画でも見ようかと思い立ち、スタッフ・浦島太郎さんの日記に触発され、『誰も知らない』にした。(これから見る予定の人は、以下は読まない方がいいです。)

 やはり役者が素晴らしいですね。撮影の間に成長期の子供たちが本当に大きくなり、それが役の成長と重なる。また、監督が構想してから20年以上温めた題材を、四季を通じて丹念に撮影したことで、「奇跡」のような時間がフィルムに刻まれている。
 ストーリーは悲しい。母親に捨てられて、子供たちだけで生き、起こるべくして不慮の事故が起きてしまう。でも、悲惨な話なのに、不思議と救いのない映画ではなかった。
 それは、監督が悲劇を母親や、社会のせいにすることを排して、母親と、子供たちの日常を、ただただ描き出したからだと思う。涙も出なかったし、強い感動もない。でも、見終わった後に、何気ないシーンがいくつもいくつも思い出されて「きっと大丈夫だ」という気持ちになる。
 「強い感動」ってやつは、意外に早く忘れてしまう。それよりも、日常の中での、毎日毎日の積み重ねの中での些細な出来事の方が、いいことも悪いこともずっと心に残り、ひょんなときに力になる。それに似ている。
 それにしても母親役のYOUは「おいしい」ところを持って行った。本当に愚かで身勝手なのだが、憎らしいほど憎めない(特にラスト近く)。母がいなくなっても、お兄ちゃんはクリスマスケーキ(ディスカウント)を買い、年越しそば(カップ麺)をみんなで食べる。母とそうした記憶があるからできることだろう。母は一時帰宅したときに、子供たちの髪を切ってやる。戸籍がないために子供を隠す生活だが、暮らしぶりが荒れていた訳ではないのである。
 母が再度出て行くとき、お兄ちゃんとドーナッツ屋で話すシーン。「学校に行きたい。お母さんは勝手だ」という彼に、「誰が勝手なのよ、勝手に出てっちゃったあんたのお父さんがいけないのよ」と言い、気まずい空気。一瞬の後、母親が「あ、学校出てなくて成功した人思い出した。○○○○」(←有名人の名が入る)とフォローすると、仏頂面だったお兄ちゃんが破顔する。こういうとぼけた味はYOUならでは。このとぼけた味は弟が受け継いでいて、ホッとすることしばしば。
 母と子は時には相手を傷つけてしまうのだが、やっぱり寄り添って笑える。それは、血を分けた実の親兄弟だからではない。日々の生活によって培われたこの家族なりの信頼関係ができているからだ。とりわけ兄弟姉妹の結束は固い。
 母親がもう帰らないと感じたお兄ちゃんが、意を決して弟、妹たちと久しぶりに外出するとき、玄関で妹の靴を出しながら素晴らしい笑顔を見せる。この柳楽くんの笑顔に心は鷲掴み。ヨン様以上なんだこれが。客におばさんが多いのは柳楽くん目当てか?
 そうやって出かけた「遠足」で、ドブ板の隙間から伸びる花を見て、「可哀想だね」とか言って無邪気に種を集める子供たち。おいおい。可哀想なのは君達だぞ!と突っ込みたくなるくらい、幸せなシーン。でも、同時に、はかなさも感じられるので、さざ波が立つように気持ちは落ち着かない。
 この映画では、誰も号泣しない。感情表現は抑えられている。結局、最後も母に会わずに終わるが、もし、彼女が末の妹の死を知ったら、彼女はやっぱり号泣するはずだ。戸籍を届けることができず、不幸にすることがわかっていても、殺せなかった命なんだから。でも、その手の感情表現をしないで「余白」があるために、かえって見る側があれこれと想像して、考えてしまう。地味な作品だが、心にちゃんと届く映画だった。

Posted by HH at 22:03 KDT
Permalink

Newer | Latest | Older