(以下、大いにネタバレあります。ご注意ください。)
『ゴジラ ファイナル ウォーズ Godzilla Final Wars』を見た。いやー、愛すべき映画です。あまり期待してなかったので嬉しい。
ゴジラ50年の集大成として、怪獣はオールスターキャスト、宝田明、水野久美、佐原健二の初期からのゴジラ俳優が出演しているのも、昔からのファンには嬉しいに違いない。全編がおもちゃ箱をひっくり返したようなお祭り騒ぎ。速いカットでぐんぐん進む。世界中の街が破壊され尽くしているのに、なぜか全体的に笑える。
それは、ゴジラ50年を含め、他の映画やマンガなど、いつかどこかで見たようなの連続で、オマージュというか、パロディー満載だからだろう。今ひとつ深刻になりきれない。(笑いどころがたくさんあるが、それは書くのを止めておきます。見た方とだけ語り合いましょうね)。そこら辺が、「子ども向け」「ゴジラの最後があんなのでいいの?!」と、真面目なファンの怒りを買うかも知れない。でも、私は「愛すべき渾身のバカ映画」で終えてくれてよかったと思う。北村龍平監督の作品は初めて見たが、なかなかの力量だと思う。バカ映画でありながら、ちゃんと「対決」が描かれている。そこが『ハウルの動く城』と違うのよ。
ヒロイン姉妹が菊川怜と水野真紀...。ヒーローはTOKIO松岡で、そのライバルがケイン・コスギ...。特撮でお金がかかるから役者はケチったのかと心配したが、意外に大丈夫だった。菊川と水野は女優としてはモッサリしているが、とっても美脚だったのだ。ドン・フライや舟木誠勝など格闘技系の人たちは、やはり肉弾戦で存在感があった。
今回の話では、人間の役割が大きく、時間も長い。でも、中日、落合監督のオレ流のように、大スターはいなくても、それぞれが自分の持ち味を生かして普段より10%増の力を出した感があって、なかなかよかった。
そして、何と言っても一番よかったのは、X星人役の北村一輝。美形なのに怪しく、頭もよく、血も涙もない奴だが、それでいてお茶目。北村の悪役ぶりだけでも見る価値がある。悪い奴だが、主人公との対決において卑怯なところはなく、最期も壮絶で、大いに納得。これを機に大ファンになってしまいました。
泉谷しげる扮する猟師のおじさんと孫、人間と同じ大きさのミニラが出てくるところは、黒沢明監督の『隠し砦の三悪人』というか、『スターウォーズ』のロボットたちというか、とてもコミカル。ミニラは本当に可愛い。思うに北村監督は黒沢映画が相当好きなのでは?
というのも、ゴジラが去っていくラストシーンは『椿三十郎』を思わせるから。椿三十郎は、「抜き身の刀」のような男。ゴジラもそうだ。怒りにまかせ何でも破壊しちゃう危ない奴。力はあるが、秩序からは遠い。「良い刀は鞘に収まっているものよ」と言われた椿三十郎だが、ラストシーンで椿を追いかける若者(加山雄三)を置き去りにして「抜き身」のまま不機嫌に去っていく。一方、ゴジラはミニラと一緒にでっかい夕陽に向かって海(東宝スタジオのプール。撮影終了後取り壊された)に去る。
ゴジラがどこに去ったのかといえば、今回は間違いなく観客の胸の中だ。最後に、ゴジラが咆吼したとき、思わず私も一緒に口を開けて吼えていたのだから。ゴジラは「怒り」にふんぎりをつけて「大人」になった。ゴジラを胸に我々も「大人」になるのだ。
そう感慨に浸っていたのも束の間、エンディングテーマで電子オルガンの妙に緊張感のない曲が流れて来た(音楽はプログレロックのELPのキース・エマーソン)。伊福部昭の音楽のように何かを鼓舞されるような感じは全然しない。何かずれてるというか、やるせなくて。「はいはい。自分のことは、もう自分で考えるから」と不思議と晴れ晴れした気分で外に出た。
Posted by HH
at 00:01 JST